福岡地方裁判所 平成7年(わ)240号 判決 1995年11月27日
裁判所書記官
内野浩二
被告人
氏名
新井信一郎こと朴二洙
生年月日
一九五〇年二月二七日
本籍
韓国(全羅北道完州郡助村面如意里九六八番地)
住居
福岡市東区馬出三丁目二番一九号
職業
会社役員
検察官
松原妙子
弁護人
(主任)三浦邦俊、近江団
主文
被告人を懲役一年六月及び罰金四五〇〇万円に処する
右罰金を完納することができないときは、金額二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、福岡市博多区千代五丁目二一番五号ほか六か所において、新井工業作業センター等の屋号で労働者供給業を営むほか、同区博多駅前一丁目二三番一一号において、ホテルニューシンプルの屋号でビジネスホテルを経営していたものであるが、実際の所得金額に関係なく、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成する方法により、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を仮名定期預金とするなどして所得を秘匿した上
第一 平成二年分の総所得金額が六一二一万七四〇九円であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、福岡市東区馬出一丁目八番一号所轄博多税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一六三八万一二〇〇円で、これに対する所得税額が一〇〇万一〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三二一万九三〇〇円との差額二二二一万八三〇〇円(別紙一の脱税額計算書参照)を免れ
第二 平成三年分の総所得金額が一億一八四一万六二四八円、分離課税の長期譲渡所得が二五〇万七〇〇円であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、前記博多税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が二三六五万四二〇〇円、分離課税の長期譲渡所得金額が三二万円で、これに対する所得税額が二五二万四〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五〇五一万六八〇〇円との差額四七九九万二八〇〇円(別紙二の脱税額計算書参照)を免れ
第三 平成四年分の総所得金額が二億一五二四万四八〇九円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記博多税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が二一二二万七七〇〇円で、これに対する所得税額が一六二万六〇〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九八七七万六一〇〇円との差額九七一五万一〇〇円(別紙三の脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠)(括弧内は検察官請求証拠番号の略である。)
一 被告人の公判供述
一 被告人の検察官調書(乙三六及び三七)
一 草野祥子及び新里良雄の各検察官調書
一 脱税額計算書(甲二九ないし三一)
一 脱税額計算書説明資料
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、各年度ごとに所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科し、情状により同条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により適用される同法による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については前同刑法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については前同刑法四八条二項により所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金四五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、前同刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により前同刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、労働者供給業やビジネスホテル経営等の事情を営んでいる被告人が、収益及び費用等について正規の記帳及び決算事務等を一切行わず、所得税の申告に際し、実際の所得金額と関係なく、殊更過少な金額を記載した確定申告書を提出するいわゆるつまみ申告の方法で、三期にわたり合計一億六七三六万一二〇〇円の所得税の脱税をした事案であるが、その動機は、自己の周囲の韓国人らには納税をしない者が数多くいたことから、自分も納税しなくても良いと考え、また、自己の事業拡大のために資金を蓄積すべく、所得税の納付を惜しんで、その納付をできる限り免れようとしたというものであって、私利私欲に基づき、かつ、無責任なもので、酌むべき点はない。我が国の社会で利益を上げているにもかかわらず納税義務を免れることが違法性の高い行為であることはもとより、本件ほ脱額が巨額で、ほ脱率も約九七パーセントと高率であること、弟らと語らって、ずさんな確定申告を行っていたことなどに鑑みるとその犯情は非常に悪質である。よって、本件における被告人の刑事責任は重いというべきである。
しかし、他方、本件の所得秘匿の方法は比較的単純であること、被告人は修正申告により、昭和六三年度分から本税、延滞税、重加算税及び市県民税の全額を納付していること、被告人は、本件摘発後、税理士の協力を仰ぎ経理体制を改善していること、本件犯行を反省し、国税局の調査に素直に協力していること、自己の周囲の納税啓発運動に積極的に取り組んでいること、同種の前科、前歴はないことなど被告人に有利な事情も存する。
これら被告人にとって有利不利な一切の事情を総合考慮して主文のとおり刑の量定をした。
(求刑 懲役二年及び罰金五五〇〇万円)
(裁判長裁判官 仲家賜彦 裁判官 富田一彦 裁判官 坂本寛)
別紙一
<省略>
別紙二
<省略>
別紙三
<省略>